無農薬信仰

 農薬は毛嫌いされています。テレビや新聞ではかなり悪いもののように報道されます。農薬は悪者でしょうか?人間にとって、環境にとって悪いものでしょうか?

 私は農薬会社の研究所に勤めています。だから、農薬が悪く言われるのはつらいです。

 「無農薬」と騒いでいるほとんどの人は、自分で作物を育てたことはないでしょう。無農薬で作物を商業的に育てられるでしょうか?ほとんどの作物では無農薬で育てると収量はかなり落ちます。落ち方は作物によって異なりますが、例えばリンゴでは90%くらい減少します。昔は田の草取りは大変でしたが、今は畦から除草剤をぽいっと投げこむだけで草が生えません。農薬は農家を重労働から解放したのです。

 農薬は危ないのでしょうか?最近の農薬のほとんどは普通物に分類されるものです。中には劇物や毒物もありますが、正しく使用する場合には問題ありません。農薬が売り出されるためには、その効果は勿論ですが、安全性について数多くのハードルをクリアしなくてはなりません。急性毒性だけでなく、慢性毒性や環境に対する影響も調べます。安全性について厳しいハードルを越えたものだけが農薬になれます。農薬を散布すると作物に残留しますが、その量は安全性に問題のない量です。防除効果があっても安全性に問題があったために開発を中止することは結構あります。私自身もそういう経験があります。

 無農薬栽培の作物は安全でしょうか?無農薬栽培のために虫が食ったり、病気が出たりするでしょう。気持ちよくはないですよね。「農薬がかかってない証拠だ」と言って食材として使う人もいますが、病気を起こす菌は毒素を出すことがあります。また、植物は無抵抗に食われているのではなくて、虫や菌から守るために毒を作ることがあります。サツマイモなどで、虫に食われているところや病気のあったところは切り取ってもすぐに褐変しますよね。そんなところを食べるとにがい味がしますよね。体に悪いのでやめましょう。

 作物は品種改良によってどんどんおいしくなっています。おいしいということは、アクが少ないということで、作物自身の毒性は下がっているのです。だから野生種よりも栽培作物の方が虫や病気には弱いのです。

 毒性の低い作物を毒性の分かっている農薬で保護してやると、収穫物の安全性はかなり高いものになります。

 木酢液など農薬でない資材が農薬のように使われていますが、これらは安全性の試験を農薬並に調べられているわけではありません。「木酢液を使って無農薬栽培」というのは本末転倒というものです。

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